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実は、このような店舗や顧客に関する知識を活用できるようになった背景には、デジタル情報ネットワークに代表されるコミュニケーション上の工夫がある。 90年代に成長を遂げた流通企業が行った組織革新について考察してきた。
組織革新とは、新たな分業とインセンティブ・システムの工夫をその内容とする。 一人のバイヤーや売場担当者の属人的努力に依存する体制から、複数の担当者によって、MD活動を行っていく体制に移行する。
そのことで個店の直面しているそれぞれの状況にあったオペレーションを可能にし、地域市場へのよりきめ細かな対応を可能にする。 そして新しい分業はMD活動の工程を透明化し、組織内での知識の共有化や修正・変更をより容易にする。
また、本章で見てきた流通企業はどこも、インセンティブの与え方を工夫し、そのことで顧客・店舗の知識を組織的に活用することにした。 ちなみにFでは、電子データを使った発注は全商品の90%について行われている。

99年には全店、全品の予実、発注、仕入、ロス、在庫状況を単品で把握できるデータウェァハウス(DWH)を構築した。 各店舗の予算達成状況、特売品の売れ具合などが本社だけでなく、全店でリアルタイム(一時間毎)に見ることができるようになっている。
FのDWHは時間単位でインストァでの加工、販売を把握し、チャンスロスをつかむことのできる、タイムマーチャンダイジングシステムと呼ばれるより高度な仮説検証の仕組みもできあがっている。 また、DWHの導入により、店長だけではなく担当者も予算の作成に関わるようになった。
これまでの章では、取引、営業、組織というディマンド・チェーン経営の実際の活動に焦点を当ててきた。 これまで見てきたディマンド・チェーン経営の活動を支えるインフラの革新について見ていくことにしよう。
ディマンド・チェーン経営は、顧客・店舗の知識を組織全体で活かす経営である。 その意味で顧客や店舗の知識を組織内に循環させるコミュニケーション・システムはディマンド・チェーン経営で決定的に重要である。
かといって、顧客・店舗の知識を組織で環流させ、活用する方法はどの企業でも同じというわけではない。 1990年代に伸びた流通企業が編み出したコミュニケーション・システムについて考察することにしたい。
一般にコミュニケーション・システム、あるいは情報システムといった場合に思い浮かべられるのは、デジタル情報システムである。 情報のデジタル化といった場合、論者によって様々な内容のものがそこに込められている。
そこで以下では「情報のデジタル化」を「様々な形の情報がコンピュータ上で処理できる形に変換され、それがコンピュータやネットワークを通して利用されるようになること」だと定義しておこう。 確かに、90年代に入って、デジタル情報化が急速に進んだといわれる。

まず第一に、企業内や企業間でやり取りされるデータが電子化されるようになった。 そして第2に、従来型のメインフレームを中心とした中央集中処理型のシステムから、クライアント・サーバーを中心とした分散処理型のシステムへと移行した。
同時に、パソコンの能力は急速に向上し、価格は急速に低下した。 さらに、それぞれのコンピュータをつなぐインタフェースが標準化され、ネットワークとしてつながりだした。
その結果、ビジネスでコンピュータを使い、業務を行う人の数が飛躍的に増えるようになった。 また、この十年の間に情報技術の積極的活用を特徴とする経営管理手法が登場するようになった。
ビジネス・プロセス・リエンジニアリング、エンタープライズ・リソース・プランニング、そしてサプライチェーン・マネジメントなどがそれである。 これらの管理手法の適用範囲は各手法でまちまちであるが、業務プロセスの変更とともに最新の情報技術を活用することが企業競争力向上に貢献すると主張している点で共通している。
このような手法が登場してきたのも、先に挙げたデジタル情報システムにおける変化があったからである。 確かに、90年代に伸びた流通企業を見てみると、デジタル情報システムを最大限に活用しているところが多い。
そして、その導入時期もかなり早い。 例えば、Sがデジタル情報システムを導入したのは、創業して5年目の78年である。
各店舗からの発注を人手をかけず、かつ、ミスもなく行うことを目標に、電子発注方式(EOS)を導入した。 また、Dがデジタル情報システムの導入は、それ自体が様々な効果を発揮する。

それは、大きく分けてデータ面と業務面で整理することができる。 一般に、BPR、ERP、SCMなどで主張されている効果も、以下で紹介するものとほぼ同様である。
コンピュータを導入したのは、創業してわずか2年しかたたない71年の10月であった。 Dがデジタル情報システムを導入したのは、一件ごとに異なる取引条件を伴う膨大な量の受発注データを、短時間で人手をかけず処理するためだった。
さらに、Sも、デジタル情報システムを早い時期に導入している。 F社長はSの店舗が6店舗しかなかった頃から大企業になったときのことを想定して、業務の仕組みと情報システムを構想し、作りあげたという。
会社が大きくなれば、本部で多くの店舗を集中管理しなくてはならない。 店舗の物の動きが目で見えなくてもデータで把握できる仕組みが必要になると考えたのである。
以上のような動きを受けて、まずコミュニケーション手段としてのデジタル情報システムを手がかりに、コミュニケーション革新を見ていくことにしよう。 データのデジタル化が生み出す効果の第2番目は、データの更新時に現れる。
その例としては、コンビニで行われている商品台帳の電子化を挙げることができる。 コンビニにおいて今では一般的になっている商品台帳の電子化を最初に行ったのはSである。
当時、Sが抱えていた問題は発注台帳に関わるものだった。 それは発注台帳の印刷経費と加盟店から行われるべき新商品の発注が行われていないという事だった。
コンビニエンス・ストアでは取り扱い商品が頻繁に入れ替わっていく。 また店舗数も莫大で、どんどん増えていく。
そうなると大量の発注台帳を頻繁に更新することが必要になる。 それを実まずデータ面では、データのデジタル化が転写・転送上のミスを減少させることが挙げられる。

例えば、80年代、日本のコンビニエンス・ストア業界では、「電話と紙を使った発注から専用端末とバーコードを使った発注への移行」が行われた。 それまでの発注は、各店が発注しようと思う商品に関して各ベンダーに電話して、発注数量を告げていた。
そしてそこでのやり取りは各人が紙に記録しておくという方法をとっていた。 そのような仕組みの場合、聞き違いや転記ミスが起こりがちになる。
それをバーコード入力や、コンピュータ入力に移行したのである。 これで発注作業が容易になり、情報の転写・転送上でのミスを削減することができた。
さらに、この発注方法によってベンダーの側がいちいち電話応対をしたり、手書き書類を「判読」したりする手デジタル情報システムの導入は、他方で業務プロセスの改善へとつながることが多い。 デジタル情報システムの導入は地理的に異なる複数の場所への、ほぼリアルタイムでの同一データの送信を容易にする。

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