ニーズがあれば気楽にまじめな話をする場はつくりやすい。
文句や苦情を言いたい、というニーズはたいていのところにはあるからそういうニーズに応える、という意味でやるのもいい。
最初は文句から始まっても、意外に早く前向きになっていくことが多いからである。
いずれにせよ、仕組みとして「気楽にまじめな話」を上手に継続していくことが、社員が「前向きな姿勢」を共有する最も確実で早い道なのだ。
ただ前向きの姿勢を共有するだけで改革が飛躍的に進むか、というと実はそうではない。
前向きの姿勢を共有する、というのは土壌を耕す、という意味である。
蒔いた種子を育てるのに、いくら土壌が肥沃になっていたとしてもそれだけでは十分でない。
太陽の豊かな光と十分な水がなければ植物は育たないのだ。
つまり、改革を本当に推進するにはそれを中心になって仕事の現場で推し進める中核的なリーダー(つまり現場の指揮官)が必要なのだ。
今いる管理職の多くはその役割を必ずしも果たせる状況になっていない。
「太陽」というのはこの場合、中核的なリーダーを発見し支える経営トップであり、「水」がまさにこの中核的リーダーに相当するこの水と太陽の問題を解決しなくては、改革は実質的には進んでいかない。
社員の多くが前向きに考え行動できるようになれば、それだけで変革がなしとげられるのか、というと必ずしもそうではない。
経営者と一緒になって組織のあちこちで具体的に変革の動きをつくり、リードしていける数パーセントの人々の存在が、植物が育つのに水を必要とするのと同じく不可欠なのだ。
社員の多くが前向きに考え行動できるTのような会社では、管理職が多くの場合、その役目を果たしている。
しかし、社員の多くがお互いに牽制し合っている組織では、管理職の多くは現状維持型であり管理型であることが多いから、今のままの管理職が変革をリードできるわけではない。
Sはこの変革のリーダーシップをとる人々のことを、世話人とかプロセスデザイナーもしくはチェンジリーダーと呼んでいる。
しかし、ほとんどの企業で「改革を推し進めよう」というときに、現実問題として今のままの管理職に不満足だとは思いつつも頼ってしまわざるをえない、という問題がある。
では、普通の会社でどのようにしてこのようなキーマンを見つけ育てていけばいいのだろうか。
今まですでに多くの企業で、こういう人々を育成しようという試みがなされてきた。
そのほとんどすべてのパターンは、まず優秀であると思われる人たちを指名し、必要な教育研修を課していくというものである。
こういうパターンで育成した場合は、たしかに知識レベルで言うと、変革に必要なさまざまな知識を持った優秀な人々をつくり出すことができる。
しかし、その人たちが変革の中核リーダーとして機能するか、というと残念ながら必ずしもそうではない。
たとえ頭のなかに知識を詰め込むことはできても、肝心の変革のためのエネルギーは外から与えることはできないからだ。
つまり変革というのは、今現在の安定的な状態を打ち壊していくだけの強烈なエネルギーがなくてTでの言い出し屋、ヒラメキエンジニア、コダワリ集団、説得屋などはすべてこの変革を推進する中核的リーダーの範晴に入る。
役割の違いによって呼び名も変わっているわけなのだ。
これらの人々は言うまでもなく変革型の人々なのだが、それだけではなく、変革を実際に推し進めていくだけの能力を持っていなくてはならない。
すなわち問題を現象面からとらえるだけでなく、その真の原因を見極めて仮説をつくる力を持っていることをはじめとして、変革を展開するシナリオを描いていく能力、関係する多くの部署のキーマンと協力関係をつくり上げていく能力などである。
いずれにせよ、こうした人々の能力とその働きなくして改革は一歩も進まないのかって十年以上前、Sは、あるメーカーで風土改革のプロジェクトのサポートをした。
その際、実のところあまりうまくいかなかったという経験を持っている。
Sがそのプロジェクトのサポートを依頼された時点で、すでに風土改革の推進委員なるものが任命されていた。
「自分で手を挙げて参画する」という体質改革の原則を明らかに踏みはずしていた。
そういう意味では、自発的な改革には結びつかないことが予想され、本来、最初からサポートそのものをお引き受けすべきではなかったのかもしれない。
ただ選ばれたメンバー自体はきわめて優秀な人々の集まりだった。
彼らは熱心に議論を深夜まで繰り返し、風土改革に向けて問題点を探り出し、方向性をつかもうという努力をした。
たしかに、しだいに全体の状況は見えてくるようになったし、問題点もはっきりはなしえない。
変革というのは時には周りからの反発も強いことが多い。
また、業務として直接評価の対象になるものでもないから見返りを期待しない情熱も必要だ。
指名された「優秀な」人間がそういう強烈なエネルギーと情熱を持っているかと言うと、実は多くの場合持っていない。
しかし、総論では問題は見えてくるのだけれども、具体的な動きにはつながっていかない。
議論に参加したメンバーが自らの「思い」で、自らの必要性から出発して具体的な課題を考え、周りからの協力を求めながら解決に向かう、という自然発生的な行動がいっさい起こってこないのだ。
これはいったいなんなのだろうということでS自身も苦悩する時間が過ぎていった。
結局、明確になったのは、一人ひとりは熱心に議論をし、熱心に問題点を見つけ、すべてにおいてけっしていいかげんではなかったのだが、あくまでも仕事として議論をし、仕事として問題点を見つけ、仕事として方向性をはっきりさせようとしていたということである。
ある一人の中心的な人物で、問題点もよくわかっている委員と話をしたとき、その人自身にとっては、風土を改革するという課題はそれほど優先順位が高くない課題であるということを知って、今ざらながら非常に驚いた。
その人個人にとっては、例えば将来のために、ある資格を取ることがそのときの最も重要な課題であったのだ。
もちろん仕事としては、風土改革の委員の仕事はするし、議論もするけれども、あくまでも仕事でやっているわけであって、自らの「思い」を原動力とし、自分の持つ課題を何とかやりとげていくという行動には移らなかった。
初めから、「言われたからやる」「課題を与えられたからやる」という側面が強く、何がなんでもやりとげたい、という個人の思いがなかったのだ。
本当の改革というのは、自分の「思い」がなければ進まない。
自分で解決していこうという自分の頭で考えた課題をつくる情熱がなければ何事もまったく動かないものだということを、あらためて痛このように、変革の中核を担うことのできる情熱と能力を持った人材を育成するというのは、通常の育成方法ではなかなかうまくいかない。
したがって、どうしても手づくり的に思いを確かめ、お互いにやりとりするというようなやり方でやってきたのが今までの状況である。
このような変革の中核を担う人材がいかに早く、しかも情熱を持ちながらその能力を鍛えていくどのような組織にでも、現状に大変強い問題意識を持っている人、というのはいるものだ。
どういうわけか問題意識の強い人には割合的に見て中途採用の人が多い。
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